しい悦《よろこ》びだった。彼は翌日どうしようかと定めてはいなかった。ブラウン家を訪問してみようかという考えが――(それほど過去は遠ざかっていた)――ちょっと起こった。しかし翌日になるとその勇気がなかった。医師とその細君とがまだ生きてるかどうかを、旅館で尋ねてみることさえしかねた。彼は出発してしまおうと決心した……。
出発の間ぎわになって、彼は不可抗な力に駆られて、昔アンナがよく行ってた寺院へはいった。そして昔彼女が跪《ひざまず》きに来ていた腰掛の見える所に、柱の後ろに座を占めた。彼女がもし生きてたらなおそこへやって来るに違いないと思って待ち受けた。
果たして一人の女がやって来た。彼はそれに見覚えがなかった。彼女は他の女たちと同じようだった。身体は肥満し、頬はふくらみ、頤《あご》は脂肥《あぶらぶと》りがし、無関心な冷酷な表情をしていた。黒服をつけていた。自分の腰掛にすわって身動きもしなかった。祈祷《きとう》してるようにも祈祷を聞いてるようにも見えなかった。前方をじっとながめていた。その女のうちには、クリストフが期待してるようなものは何もなかった。ただ一、二度、膝《ひざ》の上の長衣の皺
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