《しわ》を伸ばすようなやや習癖めいた身振りをした。昔彼女[#「彼女」に傍点]はよくそういう身振りをしていた……。出て行くときに、彼女は頭をまっすぐにし、書物をもってる手を腹の上に組み合わせて、ゆっくり彼のそばを通った。彼女の薄暗い退屈げな眼の光は、ちょっとクリストフの眼の上にすえられた。しかしたがいに相手を見てとることができなかった。彼女はまっすぐな硬《こわ》ばった姿勢で、振り向きもせずに通り過ぎた。そして一瞬間後に、彼はちらとひらめいた記憶の中で、昔自分が接吻《せっぷん》したことのあるその口を、凍りついた微笑の下に、唇《くちびる》のある皺によって、突然見てとった……。彼は息がつけず膝が立たなかった。彼は考えた。
「主《しゅ》よ、私の愛した女が住んでいたのは、あの身体の中にであるのか。彼女はどこにいるのか。彼女はどこにいるのか。そして私自身も、私はどこにいるのか。彼女を愛した男はどこにいるのか。われわれから、またわれわれを食い荒らしたあの残忍な愛から、何が残っているか。――灰ばかりだ。火はどこにあるのか。」
彼の神は答えた。
「予のうちにある。」
そこで彼はまた眼をあけて、最後にも
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