の房《ふさ》の、ふくれ上がった麦の穂の、熟した果実を孕《はら》んでる妊婦の、朧《おぼ》ろなる喜び。大オルガンのとどろき。底のほうで、蜜蜂《みつばち》が歌ってる蜜房……。秋の柔らかい光のようなその薄暗い金色の音楽から、音楽を導く節奏《リズム》がしだいに浮き上がってくる。遊星のロンドが姿を現わす。それが回転する……。
 すると、意志が現われる。意志は、嘶《いなな》きつつ通りかかる夢想の臀《しり》に飛び乗って、それを両|膝《ひざ》でしめつける。精神は、おのれを引き込む節奏《リズム》の規則を認める。そして不規則なもろもろの力を統御して、それに一定の道を定めてやり、またおのれの行くべき目標を定める。理性と本能との交響曲が組織される。影は明るくなる。展開してゆく長い一筋の道の上に、一行程ごとに輝ける光点が印せられる。そしてその光点自身は、創造される作品のうちにおいては、太陽系の囲郭につながれたる小さな遊星の世界の、中核となるであろう……。
 画面の重《おも》なる線はここに至って決定する。そして今や全体の顔貌《がんぼう》が模糊《もこ》たる曙《あけぼの》から浮き出す。すべてが明確になる、色彩の調和も形
前へ 次へ
全340ページ中280ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング