る。
 そして二人は大きな静安に取り巻かれていた。

 グラチアの健康は衰えていった。彼女は絶えず床についていたり、または幾日も長|椅子《いす》に横たわっていなければならなかった。クリストフは毎日やって来て、話をしたりいっしょに書物を読んだり、あるいは新作の曲を示したりした。彼女は椅子から立ち上がって、脹《ふく》れた足で跛をひきながらピアノのところへ行き、彼がもって来た曲をひいてやった。それは彼女が彼に与える最上の喜びだった。彼が育て上げたすべての弟子のうちで、彼女はセシルとともにもっとも天分に豊かだった。しかも、セシルがほとんど理解なしにただ本能で感じてる音楽も、グラチアにとっては、意味の明らかな一つの流麗な言語だった。人生および芸術の悪魔趣味は全然彼女にはわからなかった。彼女はそこに自分の聡明《そうめい》な心の光を注ぎ込んでいた。その光がクリストフの天才中に沁《し》み込んでいった。彼女の演奏を聞いて彼は、自分の表現した朦朧《もうろう》たる熱情をいっそうよく理解した。彼は眼をつぶって彼女の演奏に耳を澄まし、自分の思想の迷宮の中を彼女につかまってあとからついていった。彼女の魂を通して自
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