婦のそれではなかった。友の内気な熱烈な夢想であった。そして彼女の心は愛でいっぱいになった。燈火を消して床にはいってから、彼女は考えた。
――そうだ、そんな幸福が得らるる機会をのがすのは、ばかばかしい罪深いことに違いない。自分の愛する人を幸福にしてやる喜びほど、貴い喜びが世にあろうか?……おや、私はあの人を愛しているのかしら?
彼女は口をつぐみ感動しながら、心の答えに耳を傾けた。
――私はあの人を愛している。
ちょうどそのとき、かわき嗄《しわが》れた急な咳《せき》の音が、子供たちの眠ってる隣室に起こった。グラチアは耳をそばだてた。男の子の病気以来彼女はいつも不安な心地になっていた。彼女は彼に尋ねかけた。彼は返辞もしないで咳をつづけた。彼女は寝床から飛び出して彼のそばへ行った。彼はいらだっていて駄々《だだ》をこね、加減がよくないと言い、言いやめて咳をした。
「どこが悪いの?」
彼は答えなかった。苦しいと呻《うめ》き声を出した。
「いい児《こ》だからね、さあ、どこが悪いかと言ってごらんなさい。」
「わからない」
「ここが苦しいの?」
「ええ、いいえ。わからない。身体じゅうが苦しい。
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