せんか。」
「では御承知なさいますね。」
「ええ。」
「確かですか。」
「ええ。あなたは暴君です。」
「よい暴君でしょう?」
「よい暴君なんてものがあるものですか。人に好かれる暴君ときらわれる暴君とがあるきりです。」
「そして私はその両方でしょう、そうじゃありませんか。」
「いいえ、あなたは好かれるほうの暴君です。」
「不面目《ふめんぼく》なことですこと。」
約束の日に、彼女はやって来た。クリストフは節義を重んじて、散らかってる部屋の中の紙一枚をも片付けていなかった。片付けたら体面を汚すような気がした。しかし彼は心苦しかった。彼女がどう思うだろうかと考えると恥ずかしかった。いらいらしながら彼女を待った。彼女は正確にやって来て、約束の時間から四、五分しか遅れなかった。彼女はしっかりした小刻みな足で階段を上ってきた。そして呼鈴を鳴らした。彼は扉《とびら》のすぐ後ろにいて、それを開いた。彼女の身装《みなり》は簡素な上品さをそなえていた。彼は彼女の落ち着いた眼をそのヴェール越しに見てとった。二人は握手しながら小声で挨拶《あいさつ》をした。彼女はいつもより黙りがちだった。彼は無器用でまた感動し
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