奮していった。眼は燃えたってき、蒼《あお》ざめた顔には赤味がさしてき、声は疳高《かんだか》になってきた。その焼きつくすような情火とその薪《まき》になってる惨《みじ》めな身体との対照を、クリストフは眼に止めざるを得なかった。そしてその運命の痛ましい皮肉にはあまり注意しなかった。精力のこの歌人、果敢な遊戯と行動と戦争との時代を賞揚してるこの詩人は、少し歩いても息切れがし、質素な生活をし、きわめて厳格な摂生を守り、水を飲み物とし、煙草《たばこ》を吸うことができず、女に近づかず、あらゆる情熱を内に蔵しながら、健康のために禁欲主義を事としなければならなかった。
 クリストフはエマニュエルを観察しながら、感嘆と親愛な憐憫《れんびん》との交じり合った気持を覚えた。彼はそれを少しも様子に示そうとはしなかった。しかし彼の眼はそれを多少現わしていたに違いなかった。あるいはまた、脇《わき》腹に常に開いている傷口をもってるエマニュエルの自負心は、憎悪よりもいっそう嫌《いや》な憐愍《れんびん》の念を、クリストフの眼の中に読みとれるように思った。そして彼の熱は突然さめた。彼は話しやめた。クリストフは彼をまた打ち解
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