馬鹿元気との混合、などがまったくそのまま彼の詩の中に見えていた。しかしパリーの靴《くつ》屋の小僧である彼は、鬘《かつら》をつけていた先人らがなしたように、また後人らがかならずなすだろうように、二千年前に死んだギリシャの英雄らや神々の身体のうちに、自分の熱情を化身せしむることが必要だった。それは実に、自分の絶対要求と合致するこの民族の不思議な本能である。自分の思想を過去の時代の痕跡《こんせき》の上にすえながら、その思想をあらゆる時代に課そうとしてるがようである。そういう古典的形式の束縛はかえって、エマニュエルの熱情にいっそう激しい勢いを与えていた。フランスの運命にたいするオリヴィエの平静な信念は、その子弟たるこの青年のうちでは、行動を渇望し勝利を信じてる燃えたった信念に変わっていた。彼は勝利を欲し、勝利を眼に見、勝利を要求していた。その誇大な信念と楽観的思想とによって、彼はフランス民衆の魂を奮起さしたのだった。彼の書物は戦闘ほどの効果があった。彼は懐疑と恐怖とからの出口を開いた。若い時代の人々は皆彼のあとにつづいて、新しい運命のほうへ飛び出していた……。
エマニュエルは話してるうちに興
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