を注いでくれたばかりだった。
彼は言った。
「私はあの人がこの世を去るときになってようやく、あの人を理解し始めました。けれどもあの人が私に言ってきかしたことは、みな私の中にはいっていました。あの人の光は、かつて私から離れたことがありません。」
彼は自分の作品のことを話した。オリヴィエから譲り受けたと自称してる仕事のことを話した。すなわち、フランス人の精力の覚醒《かくせい》、オリヴィエがあらかじめ告げていた勇壮な理想主義の火種、などのことを話した。争闘の上を翔《かけ》って来るべき勝利を告ぐる高らかな声に、みずからなろうと欲していた。復活した己《おの》が民族の叙事詩を歌っていた。
その不思議な民族は、征服者たるローマの古着と法則とを己が思想に着せかけて、妙な慢《ほこ》りを感じながらも、古いケルトの香気を幾世紀間も強く保存してきたのであった。そしてエマニュエルの詩は、まさしくその民族の所産であった。あのゴール人特有の大胆さ、狂気じみた理性と皮肉と勇壮との精神、ローマ元老院議員らの髯《ひげ》をむしりにゆき、デルポイの寺院を略奪し、笑いながら天に向かって投鎗《なげやり》を投ずる、あの高慢と
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