《しょうすい》したその顔、熱い炎が燃えてるビロードのような美しいその眼、怜悧《れいり》そうな長いその手、無格好なその身体、嗄《しわが》れた鋭いその声……クリストフは即座に見てとった……エマニュエルを! あの……罪はないが原因となった不具の少年労働者。そしてエマニュエルのほうでもクリストフを見てとって、にわかに立ち上がった。
二人はしばし言葉もなかった。二人ともそのときオリヴィエを眼の前に浮かべた……。握手をすべきかどうか決しかねた。エマニュエルはあとに退《さが》るような身振りをしたのだった。十年たった後にも、ひそかな怨恨《えんこん》が、クリストフにたいする昔の嫉妬《しっと》の念が、本能の薄暗い奥から飛び出してきたのである。そして彼は疑い深い敵意ある様子でじっとしていた。――しかし、クリストフの感動を見てとったとき、二人とも考えている「オリヴィエ」という名前を、クリストフの唇《くちびる》の上に読みとったとき、彼はもう抵抗することができなかった。自分のほうへ差し出されてる両腕の中に身を投じた。
エマニュエルは尋ねた。
「あなたがパリーに来ていられることは知っていました。けれどあなたは、
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