つの確信と秩序のほうへ世界がむりにも上昇するのを、彼は祝した。その動向のうちに故意の偏狭さがあるのを気にしなかった。目的に向かって直進せんとするときには、前方をまっすぐに見ていなければならない。彼自身は世界の転向する角のところにすわって、後方には闇夜の悲壮な光輝を、前方には若々しい希望の微笑《ほほえ》み、清新な熱《ねつ》っぽい曙《あけぼの》の漠然《ばくぜん》たる美しさを、楽しげにうちながめた。彼は振子の軸の動かない地点に身を置いているが、振子は動きだしていた。そして彼はその動きについて行くことをしないで、生の律動《リズム》の音に喜んで耳を傾けた。彼の過去の苦悶《くもん》を否定してる彼らの希望に参加した。彼が夢想していたとおりに、あるべきことはあるだろう。十年前に、闇夜と労苦とのなかでオリヴィエは――このゴールの憐《あわ》れな小さな雄鶏《おんどり》は――その弱々しい歌で、遠い夜明けを告げたのだった。歌の主はもう世にいなかったが、その歌は実際に現われていた。フランスの庭のうちに小鳥どもが眼を覚《さ》ましていた。そしてクリストフは、復活したオリヴィエの声が、他の囀《さえず》りを圧してひときわ
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