、もし眠ることができさえするならば! しかし人はそういう能力をもつことはできない。またそれを望みもしない。苦しみを奪われることこそもっとも悪い苦しみなのである。オリヴィエは自分の熱で身を養ってる熱病患者に似ていた。ほんとうの熱に犯されていて、一定の時間に、ことに夕方、日の光が消えてゆくころから、その発作が現われてきた。その他の時は、しきりに傷心し、恋愛に中毒し、追憶に悩まされ、あたかも一口の食物を嚥下《えんか》し得ないで反嚼《はんしゃく》してる白痴のように、同じ考えばかり繰り返し、頭脳の力はすべてただ一つの固定観念に吸い取られていた。
 彼は、クリストフのように、自分の不幸を呪《のろ》い、不幸の原因たる彼女を真正面からののしる、などという術《すべ》を心得なかった。彼はクリストフよりいっそう明知で公正だったので、自分にも責任があることや、自分一人だけが苦しんでるのでないことを、よく知っていた。ジャックリーヌもまた被害者なのだった――彼女は彼の被害者だった。彼女は彼に信頼していた。それを彼はどうしたのであったか? 彼女を幸福にする力がなかったのなら、なにゆえに彼女を自分に結合さしたのか? 
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