、彼女にすがりついてきた。そして彼女のほうでは、彼をささえるだけの力が自分にないことを知った。するともう彼女は自分を支持することもできなかった、ただ奇跡によってなら救われるかもしれなかった。彼女は奇跡を呼び求めていた……。
奇跡は魂の深みからやって来た。否応なしに創造したいという崇高な無法な欲求、否応なしに自分の蜘蛛《くも》の巣を空間に織り出したいという欲求が、孤独な心から湧《わ》き出てくるのを彼女は感じた。それはただ織り出す喜びのためにばかりであって、自分がどこに運ばれてゆくかは、風のままに、神の息吹《いぶ》きのままに、うち任せたのだった。そして神の息吹きは、彼女をふたたび生活に結びつけ、眼に見えない支持を彼女に見出さしてやった。そこで夫妻は二人とも、空想のりっぱな無益な蜘蛛の巣を、ふたたび気長に織り出し始めた。それは彼らの血液のもっとも純潔なもので作られたのだった。
アルノー夫人は一人で家にいた……日は暮れかかっていた。
訪問の鈴《りん》が鳴った。アルノー夫人はいつもより早く夢想から呼び覚《さ》まされて、ぞっと身震いをした。丁寧《ていねい》に編み物を片付けて、立って行って扉
前へ
次へ
全339ページ中284ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング