る名前に、すぐ執着し、それをつかみ取ったあとには、もう手をゆるめようともせず、一度選んだその対象物なしにはもう済ませないことを、人の心に信じさせ、心全体を食い荒らし、他の愛情や、道徳観念や、追憶や、自負の念や、他人にたいする敬意など、すべて心を満たしてる過去の事柄を、全然空に帰せしめてしまう。そして固定観念がもはや身を養うべきものをもたずに、すべてを焼きつくしてみずからも死んでゆくときに、なんたる新しい自然がその廃墟《はいきょ》から飛び出してくることぞ! 好意も慈悲も若さも幻ももたない自然であって、あたかもこわれた建築を蚕食する雑草のように、生命を蚕食することしか考えないのである。
 ジャックリーヌの場合も例によって、心を欺くにもっとも適した男へ、その固定観念はからみついていった。憐《あわ》れなジャックリーヌが惚《ほ》れ込んだ男は、ある運のよいパリーの著述家で、美しくも若くもなく、鈍重で、赭《あか》ら顔で、擦《す》れっからしで、歯は欠け、心はひどく乾《かわ》ききっていて、そのおもな値打ちと言っては、世にもてはやされてることと、多数の女を不幸な目に会わしたこととであった。この男の利己心を
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