知らなかったとの弁解さえ、ジャックリーヌはなし得ないはずだった。なぜなら彼はその利己心を芸術中に誇示していたから。彼は自分のしていることをよく知っていた。芸術のうちにはめ込まれた利己心は、雲雀《ひばり》どもにたいする鏡であり、弱き者どもを妖《まど》わす炬火《きょか》である。ジャックリーヌの周囲でも、多くの婦人が彼にとらえられたのだった。ごく最近も、彼女の友の一人で結婚して間もない若い婦人が、彼のために訳なく堕落させられ、つぎには捨てられてしまった。そういう婦人らは、口惜《くや》しさを隠しおおせるほど巧みではなくて、側《はた》の人々の笑い事となりはしたけれど、はなはだしい悲嘆に沈みはしなかった。もっともひどい害をこうむった者でも、自分一身の利害と世間的な務めとを気にしていて、心の乱れを常識の範囲内だけにとどめていた。彼女らは少しも騒動をひき起こしはしなかった。夫や友人たちを欺くにしても、あるいは自分が欺かれて苦しむにしても、すべて暗黙のうちにおいてだった。彼女らは人の噂《うわさ》にたいしては女丈夫《じょじょうふ》であった。
しかしジャックリーヌは狂人だった。彼女は自分の言ってることを実
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