わなかった。彼はその感情についてセシルへはなんとも言わなかった。しかし、自分が感じてることを自分のために書きたいという要求には逆らい得なかった。彼は少し以前から、紙の上で自分の考えと話を交えるという危険な習慣に、ふたたび立ちもどっていた。恋愛の間はそれから脱していたが、今や孤独の自分を見出すと、その遺伝的な習癖にふたたびとらわれたのだった。それは苦しいおりの慰安であり、また自己解剖をする芸術家としてやむにやまれぬことだった。かくて彼は、あたかもセシルに語るようにして、しかもセシルに読まれることがないからいっそう自由に、自分自身を描写し、自分の苦しみを書きしるした。
 ところが偶然にも、その文章がジャックリーヌの眼に触れることとなった。その日ちょうど彼女は、幾年来になくもっともオリヴィエに近づいてる気がしていた。戸棚《とだな》を片付けながら、彼からもらった古い恋の手紙を読み返した。涙が出るほど心打たれた。戸棚の影にすわって、片付け物を終えることができずに、過去のことを思い浮かべた。その過去を破壊したのが痛切に悔いられた。オリヴィエの苦しみのことも考えた。かつて彼女はそういう考えを平気で見
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