たいものとなった。そしてある偶然の事柄がその情況を急進さした。
一年ほど前から、セシル・フルーリーがしばしばジャンナン家を訪れてきた。オリヴィエはクリストフのところで彼女に会い、それからジャックリーヌが彼女を招待した。そしてセシルは、クリストフが彼らと別れてから後も、なお引きつづいて彼らに会っていた。ジャックリーヌはセシルに親切だった。彼女自身は音楽家でもなければ、またセシルをやや平凡な女だと思ったけれど、セシルの歌と和《なご》やかな感化とに心ひかれたのだった。オリヴィエは彼女といっしょに音楽をひくのを楽しみとした。しだいに彼女は家庭の友となっていった。彼女は信頼の念を起こさした。彼女が打ち解けた眼と、健康な様子と、聞くも愉快なやや太い善良な笑い声とで、ジャンナン家の客間にはいってくると、あたかも霧のなかに一条の日の光がさし込んだようなものだった。オリヴィエとジャックリーヌとはある慰安を心に感じた。彼女が帰ってゆくときには、彼らはこう言いたかった。
「いてください、もっといてください。寂しいから。」
ジャックリーヌの不在中に、オリヴィエはいっそうしばしばセシルに会った。そして彼は自
前へ
次へ
全339ページ中261ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング