あって――あるいは、寝所の帷《とばり》の下に隠れたもの――あるいは、傷つけられた自尊心、気づかれ批判された心の秘密――あるいは……彼女自身にさえよくわからない、いろんなものである。知らず知らずなされたものでしかも彼女がけっして許し得ないほどの、ある隠れた侮辱が世にはある。男にはそれがどうしてもわからないし、女自身にもよくわかってはいない。しかしその侮辱は彼女の肉体の中に刻みつけられる。彼女の肉体はけっしてそれを忘れない。
 愛情を流し去るこの恐るべき力にたいして戦うことは、オリヴィエとはまったく異なった性質の男でなければできないのだった――もっと自然に近く、もっと単純であるとともに撓《たわ》みやすく、感傷的な懸念に煩わされず、本能に富み、必要に応じては理性が認めない行動をもなし得るような男でなければ、できないのだった。ところがオリヴィエは前もって打ち負け落胆していた。彼はあまりに明敏だったので、ジャックリーヌのうちに、その意志よりも強い遺伝性があるのを、母親の魂がふたたび現われてきてるのを、長い前から認めていた。彼女がその種族の奥底に石のようにころがり落ちるのを、彼は見てとっていた。そ
前へ 次へ
全339ページ中259ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング