由になりたかった。自然に欺かれたような気がした。そしてまたつぎには、そういう考えをみずから恥じ、自分を奇体な女だと考え、自分は一般の女よりも悪い者であるかあるいは別種の者であるかしらと、みずから怪しんでみた。そしてしだいに、ふたたび心が鎮《しず》まってきて、胎内に熟してる生きた果実の養液と夢とのうちに、樹木のように官能が鈍ってきた。その果実は、どういうものになるのかしら?……
初めて明るみに出たその呱々《ここ》の声を聞いたとき、人の心を撃つ可憐《かれん》なるその小さい身体を見たとき、彼女の心はすっかり和らいだ。一瞬の眩暈《めまい》のうちに彼女は、世にもっとも力強い喜びたる光栄ある母性の喜びを知った。自分の苦しみをもって、自分の肉より成る一つの存在を、一つの人間を、創り出したのである。そして、世界を撼《ゆる》がす愛の大波は、頭から足先まで彼女を抱きしめ、彼女を巻き込み、彼女を天までもち上げた……。おう神よ、児《こ》を産む女は汝にも匹敵する。しかも汝は彼女の喜びに似た喜びを知らない。なぜなら、汝は苦しまなかったのだから……。
やがてその大波は鎮まった。魂はまたどん底に触れた。
オリヴ
前へ
次へ
全339ページ中246ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング