。それでも彼は黙っていた。そんなものに答え返す代わりに――(答え返そうとしても彼にはそれが果たしてできたろうか?)――彼は自分の出版者との無益な不釣《ふつ》り合いな自負心の争いに固執していた。そして時間と力と金とを失い、唯一の武器まで失っていた。というのは、ヘヒトが彼の音楽のためにしてくれる広告を、彼は喜んで見捨てようとしていたから。
すると突然、万事が変わった。新聞に予告された論説は現われなかった。諷示も消え失《う》せてしまった。戦いはぴたりとやんだ。なおそればかりでなく、二、三週間後には、その新聞の批評家がついでにといったふうで、賞賛的な数行を発表した。和解が成立したかのような調子だった。ライプチヒのある大出版者は、彼の作品を出版しようと申し込んできた。その契約は有利な条件で結ばれた。オーストリア大使館の印章がついてる丁寧な手紙が来て、大使館で催される大夜会の番組のうちに、彼の作品を数種加えたいとの希望を伝えた。クリストフが贔屓《ひいき》にしていたフィロメールは、その大夜会にいつか一度、演奏を聞かしてほしいと頼まれた。その後引きつづいて彼女は、パリー在住のドイツやイタリーの貴族た
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