たが、それから二人で話し合った。男はナシオン[#「ナシオン」に傍点]新聞の探訪員で、グラン[#「グラン」に傍点]・ジュールナル[#「ジュールナル」に傍点]新聞に出た評論に関して、クラフト氏に面会したがってるのだった。
「どんな評論ですか。」
「まだお読みになりませんか。」
探訪員は説明の労をとってくれた。
クリストフはまた寝てしまった。眠気のためにぼんやりしていなかったら、相手を外に追い出すところだった。しかし勝手にしゃべらしておくほうが大儀でなかった。彼は蒲団《ふとん》の中にもぐり込み、眼を閉じ、眠ったふりをした。そしてそのままほんとうに眠ってしまうところだった。しかし相手は執拗《しつよう》で、評論の初めを声高に読みだした。クリストフはすぐに耳をそばだてた。クラフト氏は当代の音楽的天才だと書かれていた。クリストフは眠ったふりをする役目を忘れて、びっくりした怒鳴り声をたて、上半身を起こして言った。
「其奴《そいつ》らは狂人《きちがい》だ。何かに取り憑《つ》かれてる。」
探訪員はそれに乗じて読むのをやめ、いろんな質問をかけ始めた。クリストフはなんの考えもなくそれに答えた。新聞を取り
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