上げて、第一ページにのってる自分の肖像を茫然《ぼうぜん》とながめた。しかしその評論を読むだけの隙《ひま》がなかった。新聞記者がも一人はいって来たのだった。こんどは彼も本気に腹をたてた。出て行ってしまえと怒鳴りつけた。しかし彼らは少しも出て行こうとしなかった。室内の家具や壁の写真などの配置から、本人の顔つきまでを、手早く書き止めてしまった。クリストフは笑いだしまた怒りだして、彼らの肩をとらえて押しやり、シャツのまま外に送り出して、そのあとから扉《とびら》に差し金をおろしてしまった。
 しかしその日はどうしたことか、彼は一人落ち着いてることが許されなかった。身仕舞いを終わるか終わらないうちに、ふたたび扉をたたく者があった。ただ数人のごく親しい者のみが知ってる一定のたたき方だった。クリストフは扉を聞いてみた。するとそれも見知らぬ男だった。彼はすぐに追い出そうとした。が相手は言い逆らって、自分こそあの新聞評論の筆者であるということを楯《たて》にとった。天才だとほめてくれる者を追い出す法はない! クリストフは嫌々《いやいや》ながらも、崇拝者の感激の言葉を聞いてやらざるを得なかった。彼は天から降っ
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