、自分に親切を見せてくれる者にたいしては、あまりに人が善《よ》くなりすぎるのだった。オリヴィエは彼を一人で置いとくと心配でならなかった。いつも面会人がやってくるのだった。そしてクリストフはいくら用心しようと誓っても駄目だった。意中を隠すことができなかった。頭に浮かんだことはなんでも話した。婦人記者がやって来て彼の味方だと言うと、彼は自分の情事をも話してしまった。ある者は彼を利用して、某々の悪口を言う種に使った。オリヴィエがもどってきてみると、クリストフは困りきった様子をしていた。
「また馬鹿なことを言ったんだね。」と彼は尋ねた。
「相変わらずだ。」とクリストフはがっかりして言った。
「ほんとにしようがないね。」
「監禁でもされなくちゃ……。だが、誓ってこれでおしまいだよ。」
「そうだ、このつぎまではね……。」
「いやこれっきりだ。」
 その翌日、クリストフは得意げにオリヴィエに言った。
「また一人来たよ。僕は閉《し》め出しを食わしてやった。」
「あまりひどいことをしてはいけないぜ。」とオリヴィエは言った。「彼らにたい心ては用心しなければいけない。『この動物は性質きわめて悪し……』なんだからね。こちらではねつければ攻撃してくる……。意趣返しなんかは彼奴《あいつ》らにとって訳ないことなんだ。ちょっとしたことでも言えば、すぐにそれを利用するんだ。」
 クリストフは額《ひたい》に手をあてた。
「ああしまった!」
「またどうかしたのか。」
「扉《とびら》を閉めながら言ってやった……。」
「なんと?」
「帝王の言葉を。」
「帝王の?」
「そうだ、でなけりゃ、それに似寄った者の言葉を……。」
「困ったもんだね。明日になってみたまえ、第一ページに出てるよ。」
 クリストフはびっくりした。しかし翌日新聞を見ると、その記者がはいりもしなかった彼の部屋《へや》の記事と、交えもしなかった会話とが、掲載されていた。
 報道は広まるにつれて飾りたてられていった。外国の新聞では、反対の意味に面白くなされていた。フランスの記事が、クリストフは貧困中ギター用に編曲をしていたと伝えると、やがてクリストフはイギリスのある新聞から、自分が往来でギターをひいたことがあると教えられた。
 彼は賛辞ばかりを読んでるわけではなかった。なかなかそれどころではなかった。クリストフはグラン[#「グラン」に傍点]・ジュー
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