って、来ざるを得なかったんです。」とクリストフは言った。「君のほうからは来てくれなかったでしょう。」
「そう思っているんですか。」とオリヴィエは言った。
 それからほとんどすぐに彼はつづけた。
「まったく、そうかもしれません。そう思われるのも無理はありません。」
「じゃあ、なぜ来られないんです?」
「あまり行きたいからです。」
「なるほどりっぱな理由だ!」
「ほんとうですよ、冗談じゃありません。あなたのほうはどうでもいいと思っていられるのじゃないかと、心配していました。」
「僕もそんなふうに気をもんでみたんです。そして君に会いたくて来たんです。だが、それが君に厭《いや》かどうか、僕にはすぐにわかるんだから。」
「もうそんな厭味は言わないことにしてください。」
 二人は微笑《ほほえ》みながら顔を見合った。
 オリヴィエは言った。
「昨日は、私は馬鹿でした。あなたの気持を悪くしやすまいかと心配していました。私の臆病《おくびょう》なのはまったく病的です。もう何にも言えなくなるんです。」
「そんなことは気にしないがいいです。君の国には饒舌家《おしゃべり》がかなり多いから、ときどき黙り込む人に、
前へ 次へ
全333ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング