だ……。自由だと! この世でだれが自由な者がいるか? 君の共和国でだれが自由な者がいるか?――いるとすれば無頼漢どもばかりだ。君たちは、りっぱな人間は、皆息がつけないでいるのだ。もう夢みることしかできないのだ。やがては夢みることもできなくなるだろう。」
「なに構うものか!」とオリヴィエは言った。「クリストフ、気の毒だが君には、自由であることの楽しみがわからないのだ。危険や苦痛や死をさえも冒すに足るだけの、価値ある楽しみなのだ。自由であること、自分の周囲のすべての精神が――そうだ、無頼漢どもまでが、自由であると感ずること、それは言い知れぬ愉快事なんだ。無限の空間に魂が浮游《ふゆう》してるようなものだ。その魂はもう他の所では生き得ないだろう。君が説く安全というものは、帝国主義の兵営の四壁中にあるりっぱな秩序や完全な規律などは、僕になんの役にたとう? そんな所では窒息して死ぬのほかはないだろう。空気が必要なのだ。常により多くの空気が! 常により多くの自由が!」
「世界には法則がいる。」とクリストフは言った。「おそかれ早かれ、主人が現われてくる。」
しかしオリヴィエは嘲笑《あざわら》って、ピ
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