あった。――思想家らの変転的な多様な思想は、動体の無窮の波動に順応して、「たえず流動し、」どこにも定着せず、どこにも堅固な地面や岩を見出すことなくして、モンテーニュが言ったように、「存在をではなく推移[#「推移」に傍点]を、時々刻々に移りゆく永遠の推移[#「推移」に傍点]を描き出していた。」――学者らは、人間が思想や神や芸術や学問を作り出してる世界の空虚と虚無とを知りながら、なお世界とその法則とを、一時の力強い夢を、創造しつづけていた。彼らは学問に向かって、安息や幸福やまたは真理をも求めてはいなかった。彼らは真理に到着できるかを疑っていたのである。そして、真理は美しいものであり、唯一の美しいものであり、唯一の現実であるがゆえに、ただ真理のために真理を愛していた。思想界の絶頂には、熱烈な懐疑家である学者らがいた。彼らは苦しみにも、蹉跌《さてつ》にも、ほとんど現実にも、無関心であって、ただ魂の無声の音楽に、数と形との微妙雄大な和声《ハーモニー》に、眼を閉じて聴《き》き入っていた。それらの偉大な数学者ら、自由な哲学者ら――世にもっとも厳正確実な精神の人々――は、神秘な歓喜の極端にあった。彼ら
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