数の音楽家らの素朴なしかも精練された芸術を、彼はオリヴィエに助けられて見出した。民主主義の野菜畑や工場の煙の間に、サン・ドニーの野の中央に、神聖な小さな森の中に、あたりはばからぬ牧神たちが踊っていた。クリストフは驚いて、その諷刺《ふうし》的な朗らかな笛の歌に耳傾けた。彼がこれまで聞いた歌とは似てもつかぬものだった。
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細い小川で事足りぬ、
高い草、広い牧場、
またはやさしい柳の並木、
同じく歌う川の流れ、
それらを戦《そよ》がせんために。
蘆《あし》の小笛で事足りぬ、
森をも歌わせんために……。
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それらのピアノの小曲や小唄《こうた》に、フランスの室内音楽に、ドイツの芸術は一|瞥《べつ》も注ごうとしなかったし、クリストフ自身もその詩的妙技をこれまで閑却していたのであるが、その懶惰《らんだ》な優美さと表面の享楽主義との下に、クリストフはフランスの音楽家らが自己の芸術の未墾地の中に、未来を豊富ならしむるべき萌芽《ほうが》を捜し求めてる、革新の熱と焦慮とを、見出し始めたのだった。それはラインの彼方《かなた》には見られないことだった。ドイツの
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