友がある!……苦しいときに寄りすがるべき一つの魂を、あえぐ胸の動悸《どうき》が静まるのを待ちながら、やっと息がつけるやさしい安全な一つの避難所を、見出したという楽しさ! もはや一人ではない。疲れて敵に渡されるまで、常に眼を見開き不眠のために充血さしながら、たえず武装していることも、もはや必要ではない。自分の全身を向こうの手中に託し、向こうでもその全身をこちらの手中に託した、親愛なる伴侶《はんりょ》があるのだ。ついに休息を味わい、彼が見張ってくれてる間は眠り、彼が眠ってる間は見張ってやる。子供のようにこちらを信頼してるなつかしい者を、保護してやるという喜びを知る。向こうに身をうち任せ、あらゆる秘密をも知られてるのを感じ、勝手に自分を引き回されるのを感ずるという、さらに大きな喜びを知る。多年の生活のために老い衰え疲れていたのが、友の身体のうちに若々しく溌剌《はつらつ》と生まれ返り、新しい世界を友の眼でながめ、この世の一時の美しいものを友の官能で抱きしめ、生きることの輝かしさを友の心で楽しむ……苦しみをも友とともにする……。ああ、友といっしょにいさえすれば、苦悶《くもん》までが喜びである!
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