ゴチック芸術や十七世紀文化や革命によって世界を風靡《ふうび》した民衆、それをどうして誹謗《ひぼう》し得られよう! 幾度も熱火の試練を受け、鍛えに鍛えられ、かつて死滅せず、そのたびごとによみがえった民衆だ……。――君たちは皆そうなんだ。フランスに来る君の国の人たちが見るものは、われわれをかじってる寄生虫、文学政治財政の投機師、およびその用達人《ようたしにん》や顧客や情婦などばかりだ。そしては、フランスを蚕食《さんしょく》してるそれらの下賤《げせん》な奴らによって、フランスを批判している。迫害されてる真のフランス、フランスの田舎《いなか》にたくわえられてる活力、一時の主長者どもの喧騒《けんそう》には無関係で、ひたすら働いてる民衆、それに思いをはする者は君たちのうちに一人もない……。そうだ、君たちがそれを知らないのは当然すぎることだ。僕は君たちをとがめはしない。君たちにどうしてそれが知られよう? フランス人でさえフランスをよく知ってはいない。われわれのうちの優良な人々は、自分の国土において封鎖されとらわれてるのだ……。われわれがいかに苦しんだかは、だれもついに知り得ないだろう。われわれは民族
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