q場。周囲には、靄に包まれた青黒い森林の大洋。霧が樅《もみ》の枝葉の茂みの中にすべり込んでいた。透き通った霧の帷《とばり》が、物の線を柔らげ色を柔らげていた。すべてがじっとして動かなかった。人の足音も声も聞こえなかった。秋に熟した※[#「木+無」、第3水準1−86−12]《ぶな》の金銅色の葉の上に、雨の雫《しずく》が音をたてていた。石の間には、小さな流れの水が鳴っていた。クリストフとオリヴィエは立ち止まって、もう身を動かさなかった。各自に自分の喪の悲しみに思いをはせていた。オリヴィエは考えていた。
「アントアネット、あなたはどこに居るのか?」
クリストフは考えていた。
「母がいない今となっては、成功も何になろう?」
しかし二人ともおのおの、死者の慰藉《いしゃ》の言葉を耳にした。
「かわいいお前、私たちのことを嘆いてはいけません。私たちのことを考えてはいけません。彼のことをお考えなさい……。」
二人は顔を見合わした。そしてどちらも、もう自分の苦しみを感じないで、友の苦しみを感じた。二人は手をとり合った。朗らかな愁《うれ》いが二人を包んだ。そよとの風もないのに、霧の帷が静かに消えてい
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