ヘ、ことに彼の細君にとっては、一生のしかかってきてあらゆる行動を束縛する任意的な鎖だった。人は子供をもったときから、その個人的生活は終わりを告げて、自己の発展は永久に止めらるべきものである、とでも言うかのようだった。この活動的な怜悧なまだ若い男は、隠退するまでに残ってる働くべき年月を、ちゃんと数え上げていた。――それらのりっぱな人々は、家庭的愛情の空気のために貧血させられていた。その愛情はフランスにおいてはいかにも深いものだったが、しかしまた人を窒息させるものだった。フランス人の家庭が父と母と一、二人の子供というふうに、ごく少数になる場合に、それはますます圧迫的になるのだった。あたかも一握りの黄金を握りしめてる吝嗇《りんしょく》家のように、戦々|兢々《きょうきょう》として自分だけを守ってる愛情だった。
 ある偶然の事情からクリストフは、セリーヌにますます同情をもつとともに、フランス人の愛情の狭小なこと、生活や自己の権利の主張などを恐れてることを、示されたのであった。
 技師のエルスベルゼに、やはり技師である十歳年下の弟があった。世間によく見かけるとおり、りっぱな中流家庭に生まれて芸術上
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