、親愛なるこの国、僕はけっしてそれを疑わないだろう。この国が致命的な困難に際会しようとも、そのために僕はますます、世界におけるわれわれの使命をあくまで慢《ほこ》りつづけるだろう。わがフランスが戸外の空気を恐れて病室に蟄居《ちっきょ》することを、僕は少しも望まない。病苦の生存を長引かせることを僕は好まない。われわれのように一度偉大となった暁には、偉大でなくなるよりもむしろ死ぬほうがよいのだ。世界の思想をわれわれの思想界に飛び込ませるがいい。僕はそれをけっして恐れない。洪水《こうずい》の波は、その泥土《でいど》でわれわれの土地を肥やしたあとに、自分からくずれ去るだろう。」
「だが気の毒にも、そうなるまでの間は面白いことじゃない。」とクリストフは言った。「そして、君のフランスがナイル河から浮かび出してくる時分には、君はいったいどうなってるだろうかね。戦うほうがいいじゃないか。戦ったとて敗北の危険しかないだろう。君はすでに生涯《しょうがい》敗北に甘んじてるじゃないか。」
「いや敗北よりもずっと大きな危険があるかもしれない。」とオリヴィエは言った。「おそらく精神の安静を失う危険があるだろう。僕に
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