は君の長所から来てるとともに――(失礼だが)――欠点からも来ている。君は仕合わせにもあまりに貴族的な民衆に属してはいない。活動を君は厭《いや》がりはしない。君は必要によっては、政治家となることさえできるだろう……。それにまた、君は作曲というこの上もない仕合わせな能力をもっている。人にはわからないから、君はなんでも言うことができる。君の音楽のうちにある世人にたいする軽蔑《けいべつ》や、世人が否定してるものにたいする信仰や、世人が滅ぼさんとつとめてるものにたいする絶えざる賛歌などを、もし世人が知り得たら、世人はけっして君を許してはおかないだろう。君は彼らから邪魔されつきまとわれいらだたせられて、彼らと戦うことに最善の力を費やしてしまうだろう。彼らに打ち克《か》つときには息が切れて、もう自分の仕事を完成することができないだろう。君の生命はそこに終わってしまうだろう。偉人が勝利を得るのは、世人から誤解されるおかげによってである。人は偉人をその真相と反対の点から賞賛するのだ。」
「ふふん!」とクリストフは空うそぶいた。「君たちは自国の大人物どもの怯懦《きょうだ》を知らないのだ。僕は初め君一人が知
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