や服装や食べ物などからわずかなものを節して、借りの二百フランだけになそうとした――それも彼らにとっては大金だった。アントアネットは自分一人だけ不自由を忍ぼうとした。しかし弟は彼女の考えを知ると、ぜひとも同様にせずにはいなかった。彼らは二人ともその仕事に心を尽くして、日に幾スーかを余し得るときはうれしかった。
倹約を旨としてわずかずつ貯えながら、彼らは三年間に所要の金額に達することができた。非常な喜びだった……。アントアネットはある晩ポアイエ家へ行った。彼女は無愛想に迎えられた。援助を求めに来たと思われたのだった。彼らは機先を制するのが得策だと考えて、少しも便りをしなかったこと、母親の死を知らせもしなかったこと、用のあるときにしか顔を出さないこと、などを冷やかに彼女へ責めた。彼女はそれをさえぎって、迷惑をかけるつもりで来たのではないと言った。借りた金をもって来たまでのことだと言った。そしてテーブルの上に二枚の紙幣を置きながら、返済証を求めた。彼らはすぐに態度を変え、そして受け取りたくないふうを装った。数年たってから、もはや当てにしていない金を返しに来る債務者にたいして、債権者がにわかに
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