ポアイエの人たちは引き留めるような様子をした。
 しかしそれから十四、五分たって、だれかが訪れてきた。ポアイエ家の知人で、下の階に住んでる人たちであることを、下男が知らしてきた。ポアイエと夫人とは目配せをし、召使らに向かってあわただしくささやいた。ポアイエは何か訳のわからない口実を言いたてながら、ジャンナンの人たちを隣の室に移らせた。(自分の名折れとなる親戚があることを、ことにそれが押しかけて来てることを、彼は友人らに隠したがっていたのである。)ジャンナンの人たちは、火のない室に置きざりにされた。子供たちはその恥辱に憤慨した。アントアネットは眼に涙を浮かべて、帰りたがった。母親は最初それに反対した。けれどあまり長く待たされるので、ついに心をきめた。彼らは帰りかけた。それを下男から知らせられたポアイエは、控え室まで彼らを追っかけてきて、ありふれた文句で弁解をした。彼は引き留めたがってるふうを装っていたが、早く帰ってもらいたがってることは明らかだった。彼は手伝って外套《がいとう》を着せてやり、微笑や握手や小声の愛嬌《あいきょう》などを振りまきながら、入口の方へ彼らを導き、そして外へ追い出し
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