らはますます気が滅入《めい》った。そして、往来や商店や料理屋などどこででも、彼らはいつも驚きあきれていたので、皆からだまされてばかりいた。彼らが求めるものはどれもこれも法外の価だった。あたかも手に触れる物をすべて黄金になす術《すべ》を知ってるかのようだった。ただ、その黄金の代を払うのは彼らだった。彼らはこの上もなく拙劣で、また身を守るだけの力をももっていなかった。
 ジャンナン夫人は、もはや姉へはあまり希望をかけていなかったけれども、招待された晩餐《ばんさん》についてなお幻を描いていた。彼らは胸をどきつかせながら招待におもむいた。すると、親戚としてではなく客として迎えられた――がもとよりその晩餐には、儀式ばった接待以外の金目《かねめ》はかけられていなかった。子供たちはその従兄姉《いとこ》らに会った。ほとんど同じくらいの年ごろだったが、両親に劣らずよそよそしい態度だった。娘の方は、優雅でなまめかしくて、高ぶった丁寧な様子をし、わざとらしい甘っぽい素振りをして、気取った口調で話しかけてはジャンナンの子供たちをまごつかせた。息子《むすこ》の方は、貧乏な親戚の者と会食する役目をいやがって、でき
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