られてることを苦にしてもいなかった。ところで、ポアイエ・ドゥロルム夫人はきわめて冷淡に妹を待遇した。ジャンナン夫人はびっくりした。余儀なく自尊心をも捨ててしまって、目下の困難な境遇や、ポアイエ家から期待してる事柄などを、遠回しに述べたてた。が向こうからはわからないふうをされた。夕食に引き止められもしなかった。そして、今週の終わりにという儀式ばった招待を受けた。その招待もポアイエ夫人から出たのではなく、司法官から出たものだった。彼は夫人の待遇ぶりをさすがに気の毒に思って、その冷淡さを少し和らげようとしたのだった。彼は温良さを装っていた。しかし彼がさほど淡白でなくごく利己的であることは、明らかに感ぜられた。――不幸なジャンナン家の人たちは、旅館へ帰っていった。その最初の訪問については、たがいに印象を語り合うこともなしかねた。
彼らはそれから毎日、部屋を捜しながらパリーの中をさまよった。幾階もの階段を上るのに疲れきり、人がぎっしりつまってる兵営みたいな家や、不潔な階段や薄暗い室など、田舎《いなか》の大きな家に住んだあとにはいかにも惨《みじ》めで、見るのも厭《いや》になるものばかりだった。彼
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