をそらしていて、それを見落としがちだった。母や姉と同様に、彼も一つの迷信的傾向をもっていて、不幸は見たがらなければたぶん来るものではないと、信じがちだった。この憐《あわ》れな人たちは、脅かされてることを感じながらも、好んで駝鳥《だちょう》の真似《まね》をしていた。石の後ろに頭だけを隠して、不幸からこちらの姿を見られていないことと想像していた。
不安な噂《うわさ》が広まりかけていた。銀行の信用がだめになったと言われていた。銀行家はその預金者らにたいしていかに保証を装っても駄目《だめ》だった。猜疑《さいぎ》心の深い預金者らは金の返還を求めてきた。ジャンナン氏は自分の没落を感じた。彼は自棄《やけ》になって弁解をしながら、憤慨を装ってみたり、傲然《ごうぜん》と苦《にが》りきって、人々から信用されない不満を訴えたりした。はては古くからの預金者と喧嘩《けんか》までした。そのために悪評は一般の信ずるところとなってしまった。預金返還の要求が輻輳《ふくそう》してきた。彼はその要求に追いつめられてまったく途方にくれた。ちょっと旅行をして、近くの温泉町へ行き、銀行に残ってる札束《さつたば》を賭博《とばく
前へ
次へ
全197ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング