なかったとしたら、ジャンナン氏はたしかにその最初の一人だったろう。彼は人からむしり取られるようにできてる富裕な善人だった。彼はその訪問者のりっぱな知人仲間だの、能弁だの、お世辞などに、惑わされてしまい、またその助言の最初の好結果に、迷わされてしまった。でも最初はあまり冒険しなかった。そして成功した。そしてこのたびは大きな冒険をした。つぎには何もかも、自分の金ばかりでなく預金者らの金をも賭《か》けた。預金者らにはそれを知らせなかった。たしかに儲《もう》けると信じきっていた。りっぱにやりとげて彼らをあっと言わせたかった。
計画は蹉跌《さてつ》した。彼はパリーのある人からの通信で、間接にそれを知らせられた。その人は新しい失敗の事件を、ついでに一言述べたのであって、ジャンナン氏がその犠牲者の一人だろうとは夢にも知らなかった。というのは、ジャンナン氏はだれにもいっさいを秘密にしていたから。彼はほとんど考えられないほどの軽率な振舞をして、事情に通じてる人の助言を求めることを、怠っていた――避けてるかの観さえあった。彼はすべてを内密に行ない、自分の確実な良識に自惚《うぬぼ》れていて、きわめて漠然《
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