の大臣、一人の大司教、多くの上院議員、文芸界や財界の著名な人々、などをもってると言い、ある有力な新聞と懇意だと自称していて、相手の人柄にふさわしい高圧的なまた馴《な》れ馴れしい調子を巧みに取ることができた。自己推薦の方法としては、ジャンナン氏より少し機敏な人ならだれでも気づくほどのずうずうしさで、それら高名な知人らから受けたつまらない挨拶《あいさつ》状、すなわち晩餐《ばんさん》へ招待の礼状やそのお返しの招待状などを、一々並べたてた。がだれでも知ってるとおり、フランス人はそういうありふれた書状なんかは決しておしまないし、知り合いになったばかりの男から握手や晩餐の招待を平気で受けるものである――ただ、その男が面白い人物でかつ金銭を求めさえしないならば。なおその上に、他人が自分と同様にしてくれさえするならば、自分も新しい知人へ金を貸すことを拒まないような者も多くある。そして、隣人からその持て余してる金を巻き上げてやろうとする利口な男が、他の羊をも引き込むためにまっ先に海へ飛び込もうとする羊を、どうしても見出し得ないとするならば、それは不運のせいだというのほかはない。――前にそういうばかな羊が
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