ばくぜん》たる情報だけで満足していた。人生にはそういう迷妄《めいもう》がよくあるものである。ある時期にはどうしても没落を免れないものらしい。あたかも人に助けられるのを恐れてるかのようである。救いの助言をすべて避け、自分の身を隠し、いらだちながらあせるだけで、勝手に一人で深く沈み込んでしまう。
 ジャンナン氏は停車場へかけつけ、苦悶《くもん》に心を閉ざされながら、パリー行きの汽車に乗った。そして相手の男を捜しに行った。報知は嘘《うそ》であるか、あるいは少なくとも誇張されたものであるかもしれないと、虫のいい希望をつないでいた。が相手の男は見出せなかった。そして失敗がほんとうであることを知った。完全な失敗だった。彼は狼狽《ろうばい》して帰って来ながら、すべてを秘密にした。だれもまだそれに気づかなかった。彼は数週間の、数日間の、余裕を得ようとつとめた。そして例の医《いや》しがたい楽天主義のあまり、損失全部をでなくとも、せめて預金者らへかける損失だけは、回復の方法を見出せるだろうと、無理にも思い込んだ。そして種々の方法を講じてみたが、あまりへまに急いだために、なお成功の機会があったとしてもそれを
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