終日――には以前のとおりにつとめて弟といっしょにいた。
弟は何にも気づかなかった。新しい生活を面白がり、それに気を奪われていて、姉の様子をよく観察することができなかった。彼はちょうど青春期にはいっていた。青春期には一つのものに気をこめることができにくい。やがては心を動かされる事柄も、交渉が新しいおりには、それにたいして無関心な様子をするものである。年とった人のほうが、二十歳ごろの青年よりも、自然と人生とにたいしていっそう新鮮な印象といっそう率直な享楽とを、時とするともつがように思われる。すると人は、青年のほうが心が老い込み感情が鈍ってると言う。しかしそれはたいてい誤りである。青年が無感覚らしく見えるのは、感情が鈍ってるからではない。情熱や野心や欲望や固定観念などによって、魂がとらわれてるからである。身体が磨滅《まめつ》して、もはや人生から何も期待しなくなると、私心なき情緒が自由に動いてくる。そして子供らしい涙の泉が開けるのである。オリヴィエはいろんなつまらない事に気をとられていた。そのうちでもっともおもなものは、荒唐|無稽《むけい》な恋愛であって――(彼はいつもそんなことを空想してい
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