ない。
 試験が始まった。オリヴィエはも少しで試験を受けられないところだった。彼は気分がよくなかった。そしてまた、ほんとうに病気になったほうがいいと思うほど、及第してもしなくてもとにかく経なければならない心痛を、非常に恐れていた。がこんどは、筆記試験にはかなり成功した。しかし通過か否かの成り行きを待つのはつらいことだった。革命の国でありながら世にもっとも旧慣|墨守《ぼくしゅ》の国たるこの国の、ごく古くからの習慣に従って、試験は七月に、一年じゅうのもっとも酷暑のころに、行なわれたのだった。あたかも、各試験官でさえその十分の一も知らないような恐るべき科目の準備に、すでにまいってしまってる憐《あわ》れな受験者らを、さらに圧倒しつくそうと目論《もくろ》まれてるかのようだった。述作の受験は、人出の多い七月十四日の祭日の翌日に当たっていた。自身愉快でなくて静粛を必要とする人々にとっては、非常につらい陽気な祭りだった。戸外の広場には、午《ひる》ごろから夜中まで、屋台店が立ち並び、射的の音が響き、蒸気木馬が唸《うな》り声をたて、オルガンが鳴り響いていた。その馬鹿騒ぎが一週間もつづいた。それから、共和国
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