女とそうして言葉を交えるのが非常に幸福に感ぜられて、苦しんでることをしばし忘れてしまった。姉の顔を見、姉の声を聞くような気がした。そして姉に何もかも物語った。いっしょにいたときでさえ、それほどうち解けて熱心に話したことはなかった。「私の信実な、りっぱな、親愛な、親切な、慕わしい、恋しい恋しい姉《ねえ》様、」と彼は呼んでいた。それはまったく恋の手紙だった。
 その手紙は愛情でアントアネットを浸した。日々に彼女が呼吸し得る空気はそれだけだった。毎朝待ってる時間に手紙が着かないと、彼女は悲しくなった。グリューネバウム家の人たちが、不注意からかあるいは――ことによると――意地悪なからかいからか、手紙を彼女に渡すのを晩まで忘れたことが、二、三度あった。あるときなどは翌朝まで忘れられた。そのために彼女はいらだった。――新年には、二人は別に相談したわけではないが同じ考えをいだいた。二人とも長い電報――(高い料金がかかった)――を送って相手をびっくりさした。その電報はどちらもちょうど同じ時刻に届いた。――オリヴィエはなおつづいて、自分の勉強や疑惑についてアントアネットに相談した。アントアネットは助言し
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