なうち解けない様子となった。
弟からは毎日、十二ページもの手紙が来た。そして彼女も毎日なんとかして、たとい二、三行でも書き送った。オリヴィエはつとめて大人びた態度をして、悲しみをあまり示すまいとした。しかし彼はやるせなくてたまらなかった。彼の生活はいつも姉の生活とごく密接に結合していたから、今や姉を奪い去られてみると、自身の半ばを失ってしまったような気がした。もう自分の腕をも足をも思想をも働かせることができず、散歩もできず、ピアノをひくこともできず、勉強もできず、何にもすることができず、夢想にふけることも――姉のことを夢みる以外には――できなかった。朝から晩まで書物にかじりついた。しかし何にもためになることはなし得なかった。考えはよそにあった。苦しむか、または姉のことを考えた。前日来た手紙のことを考えた。眼を時計にすえて、今日の手紙を待った。手紙が来ると、その封を開きながら、喜びに――また懸念に――指先が震えた。恋人の手紙は相手の手に気がかりな愛情の震えを起こさせるものであるが、それ以上だった。その手紙を読むのに、彼もまたアントアネットと同様に人目を避けた。手紙をみんな身につけていた
前へ
次へ
全197ページ中138ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング