い、そういう探索、精神上の羞恥《しゅうち》を失った行ないであった。グリューネバウム家の人々にたいする彼女のやや尊大な控え目は、彼らの気分を害した。そしてもとより彼らは、自分らの厚かましい好奇心を正当とし、それからのがれようとするアントアネットの考えを不当とするために、高い道徳上の理由を見出した。彼らは考えた、「家に同居し家族の一員となり、子供らの教育を引き受けてる若い娘の、内心の生活を知ることは、自分たちの義務である。自分たちは責任がある。」――(これは、多くの主婦たちがその召使どもについて言うところと同じである。その「責任」というのは、不幸な召使どもから一つの労苦や一つの不快をも除いてやろうとはしないで、ただ彼らにあらゆる種類の楽しみを禁じようとばかりするのである。)――彼らは結論した、「良心の命ずるかかる義務を認めることをアントアネットが拒むなら、それは彼女が多少自責すべき点をみずから感ずるからである。正しい娘は何も隠すべきものをもっていないはずである。」
 かくて、アントアネットはたえず周囲からうかがわれていた。それにたいして彼女は常に身を守った。そのために平素よりはさらに冷やか
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