がら、鼻先であざけったりたがいに肱《ひじ》でつつき合ったりしても、彼は腹をたてなかった。
 彼はまた河岸通りを夢想にふけりながらよくぶらついた。それは彼が大好きな散歩だった。幼年時代を守《も》りしてくれた大河にたいする郷愁が、その散歩で多少和らげられた。ああそれはもちろん、かの父なるライン[#「父なるライン」に傍点]河ではなかった。かの全能的な力は少しもなかった。精神が翔《かけ》り回って迷い込むような、広い地平線や広漠《こうばく》たる平野は少しもなかった。灰色の眼をし、褪緑《たいりょく》色の衣をつけ、繊細なきっぱりした顔つきの河であった。都市の華麗でしかも簡素な衣裳をまとい、多くの橋の腕輪をはめ、多くの記念塔の頸輪《くびわ》をつけ、悧発《りはつ》げな無頓着《むとんじゃく》さで伸びをして、またそぞろ歩きの美人のように、自分の美しさに微笑《ほほえ》んでいる、身こなし嫋《たおや》かな優美な河であった。……そのあたりの、パリーの麗わしい光よ! それこそ、クリストフがこの都会で愛した第一のものだった。それは静かに静かに彼のうちに沁《し》み通った。彼がみずから気づかぬまに彼の心を少しずつ変化さした
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