、疾病《しっぺい》、困窮、苦しみの理由は多くあったにもかかわらず、クリストフは我慢強く自己の運命を堪え忍んだ。かほど忍耐強いことはかつてなかった。彼自身でも驚いた。病気は往々ためになるものである。病気は身体をこわしながら、魂を解放する、魂を浄《きよ》める。無活動を強《し》いられた夜や昼を過ごすうちに、あまりに生々《なまなま》しい光を恐れ健康の太陽には焼かれるような、種々の思想が起こってくる。かつて病気になったことのない者は、決して自己の全部を知ってはいない。
病気はクリストフのうちに、特殊な和らぎを与えていた。彼のうちの粗野なものをはぎ取っていた。各人のうちに存在しながら人生の喧騒《けんそう》のために聞き漏らされてる、諸々《もろもろ》の神秘な力の一世界を、彼はこれまでにない繊細な官能で感得した。ごく些細《ささい》な記憶も脳裡《のうり》に刻まれる発熱時に、ルーヴル博物館を見物して以来、彼はレンブラントの画面の雰囲気《ふんいき》に似た、熱い深い穏やかな雰囲気のうちに生きていた。彼もまた心のうちに、眼に見えない太陽の怪しい反映を感じていた。信仰をもってはいなかったけれど、自分が孤独でないこ
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