やみ》の大洋上に、風の合い間の凪《なぎ》が、晴れ間の光が、ヴァイオリンやヴィオラの和らいだ囁《ささや》きが、トランペットやホルンの栄光ある穏やかな音が、突然響いてきて、それとともに彼の病める魂からは、ヨハン・セバスチアン・バッハの聖歌のような確固たる歌が、大なる壁のごとくほとんど不動の勢いで、起こってくるのであった。
かくて、熱の幻や胸をしめつける息苦しさなどと戦ってるうちに、室の扉《とびら》が開かれて、一人の女が手に蝋燭《ろうそく》をもってはいって来るのを、彼はぼんやり意識した。彼はそれをも幻覚だと思った。口をきこうとした。しかしそれができないでまた身を落した。時おり、深い底から表面へ意識の波に連れもどされる時に、だれかが枕元《まくらもと》を高めてくれたのを、足に夜具をかけてもらったのを、背中にたいへん熱いものがあるのを、彼は感じた。あるいはまた、まったく見知らぬ顔のその女が、寝台の足下にすわってるのを、彼は見て取った。次には、別の顔が、医者が、やって来て聴珍をした。クリストフには彼らの言葉が聞き取れなかった。しかし、自分を病院に入れようとしてるのだと察した。彼は言い逆らってみた
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