かかる波の中に闘《たたか》いつづける水練家のようだった。それでもたえず彼は沈み込んだ。取り留めもない事柄、連絡のない幻影、パリーの客間《サロン》や故郷の思い出、または、馬場の馬みたいに際限もなく回ってる、律動《リズム》や楽句の妄想《もうそう》、あるいは突然に、善良なるサマリア人[#「善良なるサマリア人」に傍点]の金色の光の投射、闇《やみ》の中の恐怖の顔つき、次には、深淵《しんえん》、暗夜。それから彼はまた浮かび上がってき、立ち乱れた雲霧を引き裂き、拳を握りしめ頤《あご》をくいしばった。彼はすがりついていった、現在や過去において愛したすべての人々に、先刻ちらと見た懐《なつ》かしい顔に、親愛なる母親に、または、「死も噛み込めない[#「死も噛み込めない」に傍点]」岩のように感ぜられる、自分の頑丈《がんじょう》な一身に……。しかしその岩もふたたび海水に覆われた。ぶつかってくる波のために、しがみついてる魂の手はゆるんだ。魂は白波に押し流された。そしてクリストフは、昏迷《こんめい》のうちにもがきながら、無意味な文句を口にして、想像の管弦楽を、トロンボーン、トランペット、シンバル、チンパニー、バスー
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